八碁連だより392号(6月号)
故 郷
恩方同好会会長 藤森 力
故郷の八ヶ岳南麓北杜市から上京し、早62年の歳月が流れた。
北杜市は南に富士、北に八ヶ岳、西に北岳、甲斐駒、鳳凰三山、東に金峰、瑞牆山を仰ぐ、山また山に囲まれた風光明媚なところである。
春は田植え前の田圃が、一面蓮華の絨毯でピンク色に染まる。
日本一、日照時間が長いと言われているが、夏のギラギラ光る太陽と、むくむく湧き上がる入道雲の力強さは関東平野で味わう事が出来ない。夜は近くの水清き小川に蛍が乱舞する。子供の頃は麦わらで作った小篭をもって蛍狩りもした。
夜空を見上げると天の川にちりばめた無数の宝石が今にも降ってくるようだった。
実家の近くには甲斐源氏の流れをくむ辺見一族が築城した谷戸城跡があり、これは、国の史跡に指定されている。
谷戸城のすぐ南、城南地区には縄文時代の八ヶ岳南麓全体の祭祀場と思われる金生遺跡も発掘された。これまた国の史跡である。
そんな歴史の宝庫のような故郷を離れ長い年月が夢のように過ぎ去った。子供たちを連れ年に何回か実家にも帰ったものであるが、コロナ以降すっかり足が遠のいてしまった。
故郷の思い出は語りつくせないほどあるが、父に囲碁を教えて頂いたことは一生の財産である。父は体が弱く私が子供の頃近所のおじさんたちが我が家を訪れ、よく碁を打っていた。
そんな大人達の対局を炬燵の脇で見ていて、興味を覚えたと云うのが正確かもしれない。田舎ではあるけれども意外と囲碁が盛んな土地柄である。
中央線長坂駅前には囲碁美術館があり、東京では見る事のできない珍しい囲碁美術品が多数展示されており一見に値する。
退職後の長い日々、八碁連の仲間たちと囲碁を楽しんでいる幸せを、故郷と父に感謝し報告したい。今年は久しぶりに故郷の山々や夜空を仰ぎ、北杜市囲碁美術館にいって併設されている碁会所で知らない人達と甲州弁で語り、碁盤を囲んで見よう。